遺言書に従って相続財産を与えることを「遺贈」と呼びます。この遺贈により財産を取得したときにも課税がありますので、遺言書を作成する方・遺贈により財産を取得する方の双方は税制についても知識を持っておくことが望ましいです。
ここで遺贈に関する基本的な税制上のルールを説明していきます。
相続が開始されると、被相続人が有していた財産は、被相続人の配偶者や子といった相続人らに承継されます。
収入を得たときに所得税が課税されるのと同様、相続により財産を得たときには「相続税」が課税されます。
遺贈の場合、一般的な相続による承継とは少し性質が異なります。当事者が契約を交わしたわけではありませんが、被相続人が遺言書を作成しており、その意思に従って特定の人に財産の所有が移ります。遺言書によって財産を取得した人を受遺者といいます。遺産分割協議を経ることなく、受遺者は財産を得ることとなるのです。
遺贈は相続人以外の人に対しても行うことができますので、本来相続に関与することのない人物に渡っています。
ただ、遺贈により取得した財産にも相続税が課税される点では変わりありません。
そのため相続人であるかどうかは問われず、遺言の効果として財産を引き継いだのなら相続税を無視することはできません。
なお、贈与税は生前に受け取った財産にかかる税です。
生前贈与により金銭に換価できる何かを被相続人から受け取っていたのであれば贈与税が問題となりますが、遺贈については贈与税ではなく相続税が問題となります。
遺贈だからといって納めるべき相続税を把握するのに特別な計算方法を要するわけではありません。
そのため①遺産総額の把握、②法定相続人の把握、③基礎控除額の計算、④相続税の総額の計算、⑤取得割合に応じた相続税の配分、⑥各人の税額控除を適用、といった流れに沿って納税額を計算していくことになります。
しかしながら遺贈の場合、相続人以外が受遺者になっていることも考えられます。このときでも基礎控除額の計算において法定相続人の人数に含めてはいけません。ただ、取得割合に応じた相続税の配分においては相続人以外の受遺者についても含めることとされています。
その他、正確な税額を知るには複雑な計算を要しますので、詳しくは税理士に相談することが大切です。
遺贈に関しては、「受遺者が特定の相続人以外である場合には税額が2割加算となる」「不動産取得税がかかることがある」「不動産の名義変更で登録免許税の負担も必要」という点に注意する必要があります。
被相続人の配偶者や子、父母以外に関しては、相続税を2割増しで納税しなければならない場合があります。
そのため受遺者が相続人以外である場合はもちろん、相続人であっても被相続人の孫や兄弟姉妹である場合には2割加算して納税額を算出しなければなりません。
遺言書を作成する本人としてもこのことを理解の上、相続対策を設計していくことが大切です。
受遺者が相続人以外であって、特定遺贈として不動産を取得したときには、当該不動産に関しては「不動産取得税」が課税されます。
特定遺贈とは、“譲り渡す財産を具体的に特定した上で行うタイプの遺贈”を言います。
他の遺贈のタイプとしては、“譲り渡す財産の指定をすることなく相続財産の割合で指定する”包括遺贈もあります。
そのため「全財産の半分はAに譲る」とする内容であれば包括遺贈にあたり不動産取得税は問題とならないのですが、「この建物をAに譲る」とした場合には特定遺贈にあたり、このAが相続人以外の第三者などである場合には不動産取得税が課税されることとなります。
なお不動産取得税に関しては、「取得した不動産の課税標準額×税率」の計算式で税額が算出されます。
遺贈により不動産を取得したとき、不動産取得税のほか、登録免許税の負担もしなければなりません。不動産取得税がかからないときでも不動産の所有者となる場合には登録免許税の負担は避けられません。
なお、不動産の名義変更でかかる登録免許税については「固定資産税評価額×税率」の計算式に従って算出されます。
相続税や不動産取得税など、遺贈に係る課税に関しては控除や税負担を軽減する特例などが利用できるケースもありますので、一度税理士に相談してみることをおすすめします。