相続により遺産を得た方は、相続税の計算を行う必要があります。計算の結果次第では相続税の申告を行い、納税もしなければなりません。
申告をするまでには財産調査や評価を行う必要があり、申告のための資料も集めなくてはなりません。またその前提として遺産分割協議を行っておく必要もあるなど、相続人の方がすべき手続はたくさんあります。
「相続税申告に向けてどんな手続が必要になる?」「何から手をつければいいのかわからない」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
本記事ではこういった疑問が解消できるよう、相続税申告までの流れ、その間に行うべき手続、そして留意すべき申告期限についても解説していきます。
親や配偶者など身近な方が亡くなると、そのときから相続が開始されます。
亡くなった方は「被相続人」と呼ばれ、被相続人の配偶者と子は優先的に相続人となる権利を得ます。
子がいない場合には被相続人の親などの「直系尊属」が相続権を取得し、さらに直系尊属もいない場合には被相続人の兄弟姉妹がその権利を取得することになります。
なお、配偶者は共同相続人が誰であろうと常に相続人になる権利を持ちます。
このルールに従って考えれば、容易に相続人となる人物が見定められるでしょう。
ただ、推測に基づいて相続人を決めつけてはいけません。きちんと公的な資料を用いて相続人となる人物を調査することが大切です。
相続人の調査にあたっては、“戸籍の収集”を進めることになります。
被相続人の戸籍を取得し、その内容を確認することで本当の相続人が調べられます。
もし隠し子がいた場合でも戸籍を確認することで見つけ出せます。
相続人になる正当な権利を持つ人物が参加しないまま遺産分割協議をしても、その協議は無効になってしまいますので注意しましょう。
なお、取得すべき戸籍は被相続人の出生から死亡までの全部です。途切れのないよう、一連になっていることを確認しながら戸籍を集めていかなくてはなりません。
この調査で不備があると後々大変な手間が発生してしまいますので、専門家に依頼するなどして調査を進めてもらいましょう。
相続税は、最終的に各相続人の取得分に応じて計算しますので、納税額も各人で異なります。
そこで相続人が複数いる場合には、遺産分割協議の結果によって相続税も変動することとなります。
ただ、どんな遺産があるのかわからないまま遺産分割を行うことはできません。
そこでまずは“遺産の調査”から始めます。
基本的には被相続人が所有していたあらゆる財産が相続の対象です。
そこで様々な財産が存在している可能性を考えつつ、遺産の存在を調べていなくてはなりません。
まず着手すべきは“被相続人の自宅の捜索”です。
自宅に現金があることが多いですし、腕時計や宝石など高価な物も見つかるかもしれません。また、預貯金や有価証券、負債等に関する資料も自宅に保管されているケースが多いです。
自宅を捜索して、どの金融機関と取引があったのか、残高はどれほどあるのか、といったことを調べていきます。
遺産分割協議に先立って、遺言書が作成されていないか、確認しておく必要があります。
遺言書がある場合、原則としてその内容に従って遺産を分割することとなりますので、遺産分割協議の進め方も変わってきます。
もし「すべての財産は配偶者に渡す」との記載が遺言書にあった場合、遺産分割協議で分け方を悩む必要もなくなります。
※相続人全員の同意に基づいて、遺言内容とは異なる遺産分割を行うことも可能
相続財産には土地や建物、株式などが含まれていることもあります。
これらを取得して相続税の計算を行うには、各財産の価値が数値で示されている必要があります。そのために“相続財産の評価”を行います。
例えば土地の場合、路線価が定められている宅地であれば、路線価方式に従い評価を行います。
このように各財産の種類や状況に応じて評価方法は決まっています。とはいえ誰が評価しても同じ結果になるとは限りません。土地の状態をよくチェックし、減価要因を突き止めることができれば、その分を算定に組み入れて評価額を下げることもできます。
ただ、この評価を一般の方が行うのは難易度が高いです。
脱税を疑われてもいけませんし、節税効果を得つつも正確な評価を行うためには、税理士などのプロに任せることが推奨されます。
当事者となる相続人、分割の対象となる財産が明らかとなり、その評価も終えれば、遺産分割協議を始めます。
誰がどの財産を受け取るのかを決めることとなりますので、親族間の関係性が良好でない場合には揉める可能性もあります。
逆に普段からコミュニケーションを取っており、親密な仲にある場合にはスムーズに話し合いを進められるでしょう。
トラブルが予想される、トラブルを予防したい、という場合には相続に強い専門家にアドバイスを受けておきましょう。
すでに対立関係にあり和解を目指す場合には弁護士に依頼して対応してもらいましょう。
遺産分割協議を終え、各人の取得分が確定すれば、ようやく相続税の計算ができるようになります。
また、相続税の計算とは別に各財産につき名義変更を行う必要があります。
取引先金融機関にて手続を行い、名義を変更しておきましょう。不動産を取得した場合には登記申請を行う必要があります。
相続税の申告は、申告書を作成してこれを提出する形で行います。
そのため申告書を作成する必要があります。
申告書は国税庁のHPからダウンロードできます。記載例が載っているフォーマットも閲覧できますし、自分で申告書を作成することも不可能ではありません。
ただ、申告漏れや計算ミスが生まれやすいため、相続財産の評価から申告書の作成までをできるだけ税理士に任せたほうが良いでしょう。
申告書が作成できれば、添付書類とともに税務署にこれを提出します。
添付書類として、少なくとも被相続人との血縁関係を証する書類と本人確認書類が求められます。血縁関係を示す書類として戸籍謄本を、本人確認として印鑑証明書を用意すれば問題ありません。
提出先は“被相続人の最後の住所地を管轄とする税務署”です。申告をする方のエリアを基準とはしませんので注意しましょう。
自宅から遠く離れた税務署に提出しなければならないケースもありますが、郵送により提出することも可能です。
直接提出する時間が取れない方なども、郵送で提出すると良いでしょう。
また申告期限にも注意しなければなりません。
相続税の申告・納税の期限は“相続が開始したことを知った日の翌日から10ヶ月以内”です。
「相続開始から10ヶ月」と説明されることが多いですが、厳密には“相続開始を知った日の翌日”が起算日となります。何らかの事情で相続開始、つまり被相続人が亡くなったことをしばらく知らなかったのであれば、その期間分申告期限は相続開始日からずれることになります。